ランゲルハンス島の午後

村上春樹
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猫の謎


 人間にもいろんな人がいるけれど、猫にも実にいろんな猫がいる。僕はだいたいが暇な生活を送っているので、しょっちゅううちの猫たちの動きを観察しているのだが、どれだけ見ていても見飽きるということがない。
 うちには十一歳の雌のシャムと四歳の雄のアビシニアンがいるが、性格の複雑さという見地からすれば年を食ったシャムの方にやはり一日の長がある。まず第一にこの猫はごはんをやってもすぐには口をつけない。どんなに腹が減っていても「ふん、ごはんか」という顔をしてプイと向うに行き、しばらく尻尾をペロペロと舐めている。そしてしばらくしてほとぼりが冷めた頃にやってきて、「まあ食うか」というかんじで食事をする。どうしてそんなことをいちいちやらなくちゃいけないのか僕には全然理解できない。