仏遺教経


一、邪業を退治する教え


 あなた方僧侶方よ、私が入滅後においては、波羅提木叉を尊重し、敬いなさい。そうすれば闇夜に明かりを得、貧しい人が宝を得たように救われるでしょう。まさに知るべきです。これこそ、あなた方の大師なのです。たとえ私がこの世に生き続けたとしても、この波羅提木叉と別物ではありません。[だから私をあてにしないで、自らの<別解脱>を頼りにすべきです。] 浄らかな戒(慎み)を保とうとする者は、販売や貿易をしたり、田畑屋敷を所有したり、労働者や使用人、家畜などを蓄えてはなりません。すべて農耕と財産とは、火の穴を避けるように遠く離れるべきです。[なぜなら、所有欲は煩悩の根源だからです] 草木を伐採し、土地を耕し、薬を調合し、吉凶の占いをし、星の占いをし、月の満ち欠けで月日をはかり、暦を計算したりしてはなりません。それらは、苦しみからの解脱を求める人にはふさわしくありません。身に節度を保ち、ふさわしいときに食べ、こだわることなく清らかに自立して命を養いなさい。世間の政治に参画し、敵味方の間に立って調停したり、まじないや霊薬をつくり、高貴な人にとりいり、おべっかを使うなどはあってはならないことです。それらはいずれもふさわしいことではないからです。まさしく自ら心をただし、正しい思い(正念)にして救いを求めるべきです。心のなかに自我の瑕疵を内包し、異様な行動をし、仲間を惑わすことがあってはなりません。飲食・衣服・臥具・医薬の四種の供養を受けたときには、必要な量の限度を心得、満足することを知るべきです。わずかな供養を受けて、蓄えをしようなどというさもしい心を起こすべきではありません。ここにすなわち略して戒を保つ在り方(相)を説明しましょう。戒は、正しい解脱の根本です。それゆえに<別解脱>と名づけられるのです。この戒をよりどころにすれば、いろいろな落ち着き・静けさ(禅定)および苦を滅する智慧を生みだすことができるのです。それゆえにあなた方僧侶は浄らかな戒を保って、壊し欠くことがあってはなりません。もしも人がよく浄らかな戒がなければ、さまざまな善き功徳はみな生まれてこないでしょう。このゆえにまさに知るべきです。戒は、第一番に穏やかな功徳のすみかであるということを。



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