なんとか読者がしばらくは、読んでいるものとおなじように凶暴になり、これら陰鬱で毒だらけの頁の荒れ果てた沼をわたり、けわしく未開のみずからの道を、迷うことなくそこに見つけてほしい。この本を読むには、しっかりした論理、うたがう心、そしてそれらと同量の精神の緊張とを保っていてもらわないと、命にかかわるこの放射性物質は、水が砂糖にしみこむように、魂にまで浸透していくだろう。これからの頁をだれもが読むのは、よくないことだ。いくらかの人たちだけが、あぶないめにあうことなく、この苦い果実をあじわえる。だから臆病な魂よ、こんなだれも行ったことのない大陸の、おくふかくまで踏みこまないうちにひきかえせ。ぼくの言うことをよく聞くのだ。進んでしまわないうちに、ひきかえすのだ。母親の顔のきびしい凝視から、うやうやしくそらされる息子のまなざしのように。いやむしろ、ふかい考えをもつ寒がりの鶴たちが、はるか彼方に形成する角度のように。
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読者よ、この著作にとりかかったとき、ぼくが助けをもとめたのは、おそらく君も欲しがっている憎悪なのだ!君がその憎悪を、かぞえきれない悦楽にひたりながら、高慢でおおきく、うすっぺらな鼻の穴で、鱶のように腹を仰向けにして、美しく黒い大気のなか、その行為の重要さと、君にふさわしい食欲のすくなからぬ重要さとを、君がまるでわかっているかのように、その赤い放射性物質を、ゆっくりとおごそかに吸い込むんじゃないぞと、言っているのはだれだ? ぼくは君に約束する。その放射性物質は君のみぐるしい鼻の、ゆがんだ二つの穴を楽しませるにちがいないと。おお化け物よ、その楽しみのために、永遠なる神への呪われた信仰を、あらかじめ三千回たてつづけに、君は吸い込んでおけ! 君の鼻孔はえもいえぬ満足、びくともしないエクスタシーに際限なくひろがり、香水やお香のようにかおりたち、もうそれ以上のものなど、この世でほかに欲しいものなど、なにもいらなくなってしまうだろう。というのもそうすれば、ここちよい天空のすばらしさ、そして平和のなかに住む天使たちのように、君の鼻孔は完璧なしあわせにすっかり満たされてしまうからだ。
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マルドロールがしあわせに生きていた、人生のはじめの何年かのあいだ、彼がどんなに善良だったか、ぼくはほんの数行であきらかにすることができるが、それはもうすんでしまったことだ。やがて彼は、自分が性悪に生まれついていたことに気づく。なんという運命のいたずら!
彼はそれからずっと、自分の本性をできるかぎりかくしてきた。だがついに、その不自然の精神集中のために、毎日頭に血がのぼり、そこで彼はいつわりの人生をつづけられなくなり、わが身を決然と悪の道に投げ込んだ……。するとどうだ、なんていい気持ちなんだ!
そんなことを言っているのはだれだ! バラ色の顔した赤ん坊を抱けば、その頬をカミソリで切り取りたくなり、もし正義がこらしめのながい行列をひきつれて、そのたびごとに妨害にやってこなかったら、彼はしょっちゅう切ってしまっていただろう。彼は嘘つきではなかったので本音を吐き、おれは残忍だと言った。人間どもよ、聞いたかね?
彼はこのふるえるペンで、それをまたここに書いているのだ! そのように、意志よりも強い力が存在しているのだ……。石は重力の法則からのがれようとするだろうか?
とんでもない。悪が善と手をにぎろうとするだろうか? とんでもない。ぼくがくどくど言ってきたのは、じつはそのことだ。
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