Comte de Lautreamont
Les Chants de Maldoror


ロートレアモン伯爵:『マルドロールの歌



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 想像力の産物であれ、じっさいに持ちうるものであれ、心の高貴な特性とやらの助けをかりて、人類の称賛を手に入れるために、ものを書くやつがいる。だがぼく、このぼくは残虐のよろこびを描くために才能を使う! うたかたのものでもなく、でっちあげのものでもない、あのよろこびを描くために。そのよろこびこそ人類とともに生まれたのだ。そして人類とともに終わりをむかえるだろう。神の摂理と密約をかわして、才能と残虐とが同盟をむすべないものだろうか? いや、残忍だから才能をもてないのだろうか? ぼくの言葉が、それをこれから証明するだろう。君がそのあかしを見たければ、ぼくの話に耳をかたむけるだけでいい……。失礼、ぼくの髪の毛が、頭のうえで逆立ちしたようだ。いやなんでもない。自分の手でかんたんに、もとどおりになったよ。この歌を歌う者は、これが未知のものだと言い張りはしない。それどころか、その主人公の傲慢でたちのわるい考えが、全人類のなかに存在していることに、ぼくは満足している。

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 ぼくは見てきた。これまでずうっと、ただひとりの例外もなく、人間どもが肩をすぼめながら、かぞえきれないおろかな振舞いにはしり、同類を愚鈍にし、あらゆる方法で魂を腐敗させるのを。彼らはそのような行為の動機を名誉とよぶ。それらの光景を見て、ぼくはみんなのように笑おうとした。とぎすまされたハガネの刃をもつナイフをにぎり、唇のあわさっている部分の肉を、ぼくは切り裂いた。一瞬、うまくいったようだった。鏡のなか、ぼくの意思で傷つけたぼくの口を、ぼくはみつめた。失敗だ! それがほんとうに人並みの笑いなのかどうか、(二つの傷口から大量に流れでる血が)ともかくわからせてくれないのだ。しかし、しばらくよく見ていると、ぼくには見えた。ぼくの笑いが人類のそれに似ていないことが。つまり、ぼくは笑っていなかったのだ。ぼくは見た。みにくい頭のくらい穴に落ち込んだ、おそろしい眼をした人間どもが、岩のかたさ、鋳鉄のかたさ、鱶の残忍さ、青春の横柄さ、犯罪者の的はずれの激怒、偽善者の裏切り、最高に異常なコメディアン、坊主の押しの強さ、天上地上のもっとも冷酷なふかみの奥底にかくされたものたち、それらのすべてを、人間どもが追い越してしまうのを。彼らの心をみわけようとするモラリストたちがへとへとになり、天上からは仮借なき怒りがふりそそぐ。それでも人間どもはやってのけたのだ。またぼくは見た。やつらが、慈悲深い神のなさけをさそう不義と恐怖でいっぱいの、胸にひめた底なしの想いをそとに洩らそうともしないで、氷の沈黙のなか、憎悪にみちたうらみがましい後悔のまなざしで、地獄の霊にでもそそのかされたように、はやくも母親のそむいた子供のこぶしのように、すばらしくたくましいこぶしを、天にむけて突き上げるのを。さらにぼくは見た。幼年期のはじまりから老後のおわるころまで、いつもいつも、生きているすべてのものに、そして彼ら自身に、はたまた神のおぼしめしに、常識のかけらもない信じられない呪いのかずかずをまきちらしながら、女子供に身を売らせ、羞恥にささげられた肉体の部分をけがす彼らを。そこで海という海は潮をもちあげ、その深淵に船を呑み込む。嵐や地震が家々をくつがえす。ペストをはじめさまざまな病気が、祈りをささげる家族をみなごろしにする。それでも人間どもは気がつかない。またぼくは見た。この地上でのおこないを恥じて、赤くなったり青くなったりする人間たちを。それはほんのちょっぴりだったが。台風の妹の嵐よ、ぼくがその美をみとめない青空よ、ぼくの心そのままに猫っかぶりの海よ、神秘の乳房をもつ大地よ、星たちに住む者たちよ、全宇宙よ、それらをみごとにつくりあげた神よ、ぼくが訴えたいのはおまえだ。一人でもいいから、善良な人間を見せてみろ!……だがおまえの力で、ぼくの持っている力を十倍にしてくれてもいい。あんな化け物ばかり見てきたので、ぼくはおどろきのあまり死にそうだ。人はちょっとしたことでも死ぬのだから。